「仕事と家族」筒井淳也著 中公新書を読んで
なぜ、日本では男女間の賃金格差が大きいのか
それは以下の構造的な原因があるといいます。
日本の会社で出世するためには以下のことを受け入れる必要があるといいます。
1.職務内容を限定しないこと(なんでもする)
2.残業をいとわないこと
3.転勤をいとわないこと
これを三つの無限定性というそうです。
2,3は分かりやすいですが、1の職務内容を限定しないとは、現場における仕事の内容があらかじめ決められておらず、広がる可能性があるということです。
欧米では、旋盤、清掃、経理、管理といった職務内容があらかじめ決められ、それ以外の仕事を要求されることは無いようです。
日本ではコンビニのアルバイトでさえ、商品陳列、仕入れ、シフト管理までいつのまにか任されるという現状があります。
これが単純に悪いこととは言えませんが、仕事の見通しがつきにくく、従業員の負担は無限に大きくなる可能性があります。このことは長時間労働に直結します。
この三つの無限定性を受け入れないと日本では出世できない
そしてそれが可能だったのは、私的な面、家庭の維持を女性がサポートしてきたからだということです。
私的な面のサポートを前提にしないと日本では高収入が得られない。
女性はそのサポートを得にくい。
これが男女の賃金格差の構造的原因であると。
では、日本でも欧米のように職務内容が限定された働き方に変えていけばよいのかというと話は簡単ではありません。
職務内容が限定されていれば
・会社でその職務がなくなれば即、仕事がなくなる
・不景気になれば経験の少ない若年層が真っ先に解雇される
・収入を増やしたければ職務内容そのものを変えなけらばならない。そのスキルアップを会社はサポートしない
これは失業が簡単に増える構造です。
日本で失業問題が欧米ほどには大きくならないのは、社内での人員配置が柔軟にできるから、すなわち1の職務内容の柔軟さがあるからだといいます。
しかしいま、男性だけの収入だけで家計を維持するのは厳しい。
夫婦共働きを選択しにくい状態ではますます出生率が下がり日本の活力は落ちていく
仕事の無限定性を見直す必要があると著者は主張します。
ポイントはすべてのいいとこどりの政策はありえないということ
出産、育児期のサポートだけでは問題の根本的解決にはならないことなどが指摘されます
大変興味深い本です。
スウェーデンの女性の雇用の半分が公務員でそのかなりの部分が育児介護のサポートであること、
高学歴の女性のかなりの部分が公務員に流れるので実は男女賃金格差は大きく、取締役の女性の割合は高くないこと。ドイツの女性取締役の割合は日本より少ないとか単純に欧米礼賛でないところが小気味よいです。
実はまだ読了していないのですが、大変興味深い本です。
この後、家族の家事分担の不公平の話とか格差の話が続きます。
この手の「世界は単純ではないのだ」という話は大好きです。
歴史も海外とも比較も目配りがあり良著だと思います。
労働問題、男女格差の問題に関心のある人には必読書だと思います。
「仕事と家族」筒井淳也著 中公新書